CIRIC 千葉ヨウ素資源イノベーションセンター Chiba Iodine Resource Innovation Center

ヨウ素とは

はじめに

図1. ヨウ素昇華性
図1. ヨウ素昇華性

「ヨウ素」は「ヨード」とも呼ばれ、『ヨウ素でんぷん反応』や『ヨウ素昇華反応』など特徴的な反応が知られております。多くの人が理科の教科書で目にしたことがあると思います。そのため、化学を専門としない人にとっても聞き覚えがあるポピュラーな元素です。若い人は馴染みがないですが、保健室や家庭の褐色消毒薬にヨウ素が入っており、子供の時分に怪我をすると傷に沁みる消毒薬として印象的でした。また、2014年7月より温泉の泉質名に「含よう素泉」が追加されたことで、日常生活の中でヨウ素の名前を目にする機会が増えたと感じております。

高度成長期以降、日本はエネルギーや資源を輸入に頼っており、資源小国であると言われてきました。しかし、実は日本は世界有数のヨウ素資源大国です。特に千葉県は世界中で利用されているヨウ素の約4分の1の生産しており、複数のヨウ素メーカーが生産拠点を置いています。

ヨウ素の特性と偏在

図2. ヨウ素の外観
図2. ヨウ素の外観

ヨウ素は原子番号53のハロゲン元素です。その名前はドイツ語のJod(ヨード)に由来しています。非金属元素で黒紫の常温固体であり、金属光沢を有する鱗片状の斜方晶系結晶です。チタンより密度が高く、融点113.7℃という金属と比べると低い温度で溶融状態となる特徴があります。また、固体から気体へと相転移する昇華性を有しており、独特の薬臭があります。ヨウ素は次のような特徴も有しています。多くの電子を保有する大きな元素で、酸化還元を受け易く、超原子価構造を取り反応性が高く、ハロゲン結合能も高い。そして、日本がヨウ素の資源大国です。これらの特徴がヨウ素の魅力となっています。

ヨウ素は地下から天然ガスを採取する際の付随地下水に100 ppm程度のヨウ素イオンとして溶け込んでいます。ヨウ素生産原料は地下深度500~2,000mから採取される地下水「かん水」、約80~280万年前の古代海水です。その「かん水」からヨウ素を抽出・精製することで天然資源ヨウ素を生産しています。

図3. ヨウ素生産地別生産割合
図3. ヨウ素生産地別生産割合
(2017年日本ヨウ素工業会推定値)

ヨウ素が採取できる場所は世界でも限定されています。ヨウ素二大生産国であるチリと日本で世界のヨウ素の約9割を供給しています。日本は世界のヨウ素生産量の約3割を担っており、貴重な輸出元素資源であると同時に世界への安定供給の責務があります。国内で主に千葉県、新潟県、宮崎県の3か所でヨウ素を安定生産しています。特に千葉県は国内ヨウ素生産量の約8割を生産しており、世界に供給されるヨウ素の2割以上が千葉県産と言えます。

ヨウ素の歴史と製造

図4. ヨウ素製造プロセス
図4. ヨウ素製造プロセス
(ヨウ素学会HPより抜粋)

ヨウ素は1811年、フランスのクールトアによって発見されました。当時は海藻から火薬の原料である硝石が盛んに製造されていました。その際、海藻灰から刺激臭を有する紫色の蒸気が発生することに注目し、その蒸気が冷えることで黒紫色の結晶が得られることを発見したことがヨウ素の始まりです。その後、ゲーリュサックらの研究で新しい元素であることが確認され、1814年にヨードと命名されました。発見直後からヨウ素は様々な分野に利用されてきました。

日本におけるヨウ素製造は1880年代から海藻を原料とした「灰化法」で行われていました。その後、1935年に千葉県でかん水を原料としたヨウ素生産が始まり、日本は世界有数のヨウ素生産国となりました。現在、日本のヨウ素製造プロセスは「ブローアウト法」と「イオン交換樹脂法」が主流プロセスです。

ヨウ素の用途と「ヨウ素資源高付加価値化」

図5. ヨウ素の用途
図5. ヨウ素の用途
(CIRICセミナーNo.1要旨集から抜粋)

ヨウ素は発見当時から高い殺菌作用に注目され、医薬用殺菌剤として用いられてきました。現在でも幅広い細菌、カビ、ウィルスに殺菌効果を示すことから一般用の消毒薬、うがい薬を始めとして、食品加工工場、醸造工場、医療現場の殺菌剤として利用されています。

現在では、光学特性を活かしたレントゲン造影剤や偏光フィルムに需要が増加しています。また、ヨウ素の高い触媒作用を活かした撥水撥油剤の製造過程に利用されるなど先端産業にとっても不可欠な資源です。

さらにヨウ素は生体必須元素の一つです。日本人はヨウ素が豊富な海藻類を食べるため注目されることが少ないですが、海外ではヨウ素欠乏が深刻な問題となっています。鉄分、ビタミンAの欠乏と併せて世界の三大微量栄養素欠乏と言われており、不足すると甲状腺腫や発育不全、知能障害を引き起こします。2018年3月ユニセフ発表1)では、毎年生まれてくる赤ちゃんの14%である1900万人近くがヨウ素不足で脳障害を起こすリスクがあるとの報告がありました。この予防として、世界の多くの国で食卓塩にヨウ素を添加する取り組みが進められています。

様々な製品に利用されているヨウ素ですが、その多くが原料の状態で海外に輸出されて、海外で付加価値を付けたヨウ素製品として輸入しています。日本が世界に誇る資源でありながら、その有効利用が課題となっています。近年、次世代技術を活かした太陽電池やディスプレー、有機超伝導体のハイテク製品の原材料としてもヨウ素は注目されています。

持続可能な社会に向けた「ヨウ素資源高循環化」

様々な用途があると同時に需要拡大が見込まれるヨウ素ですが、日本の埋蔵量は断トツの世界一、経済的に回収できるヨウ素のうち75%以上を日本が保有していると言われています2)。日本のヨウ素可採年数は600~700年と言われており、非常に豊富なヨウ素資源を保有しています。しかし、限りある天然資源を無駄にしてはいけません。さらに、ヨウ素需要増加に合わせてかん水採取を増加することは環境負荷にも繋がる恐れがあります。現在のプロセスにおけるかん水からのヨウ素抽出率は約90%程度です。豊かな自然資源を大切に利用するためにはかん水からの「ヨウ素抽出効率改善」が重要な課題です。

さらに、資源有効利用の観点から「ヨウ素リサイクル」の社会的要請が強くなっています。既にヨウ素メーカーでは研究開発を行いリサイクルに努めています。使用済みのヨウ素は様々な形態で、かつ用途特有の不純物が混在して返却されます。これに不純物除去前処理を行い、高純度ヨウ素製品として精製を行います。

更なるリサイクル推進のためには様々な環境技術やリサイクル体制整備が必要です。この課題は企業単独の努力だけでは達成が難しく、日本の社会的課題として産学官で協力してソーシャルイノベーションを起こすべく研究開発が望まれています。日本はヨウ素2大生産地として世界の需要に応え、ヨウ素を通じて社会発展に貢献する責務があります。

おわりに

ヨウ素有用活用を実現するために、「学」学術機関の有する最先端技術、「産」企業の有する基盤技術や技術蓄積、「官」公共団体による研究開発基盤形成や制度改善の産学官融合が必要です。CIRICをヨウ素研究開発ネットワークの中心としてそれぞれのセクターが強みを持ち寄り、俯瞰的な研究テーマアップから新規事業創出まで行われることが期待されています。

参考文献

  1. United Nations Children's Fund,「Brighter futures: Protecting early brain development through salt iodization」,2018年(最終閲覧日:2018年12月25日)
    https://www.unicef.org/nutrition/files/brighter-future_Protecting-early-brain-development-through-salt-iodization-web-final.pdf
  2. E. K. Schnebele, MINERAL COMMODITY SUMMARIES 2018; U.S. Geological Survey: Reston. Virginia, 2018, pp.80-81.
pagetop